収益物件で重視すべきは利回りではなくキャッシュフロー

賃貸経営の基礎

収益不動産物件を購入する際、利回りが高い物件に目が向きがちですが、実際に手元に残るキャッシュフローが少なければ、投資は失敗に終わる可能性が高いです。利回りだけでなく、キャッシュフローの確保が不動産投資の成功の鍵となります。

多くの投資家が不動産を選ぶ際、まず注目するのは「表面利回り」です。これは、年間の家賃収入を物件価格で割った数値で、高ければ高いほど収益性が高いと考えられます。しかし、利回りだけに基づいて投資判断をすると、予期しない支出が重なり、結果的に手元に残る現金(キャッシュフロー)がほとんどなくなる、もしくは赤字になってしまうケースが多々あります。

利回りの落とし穴

例えば、表面利回りが10%の物件があったとしても、その物件にかかる管理費、修繕積立金、税金、そしてローンの返済が多額であれば、手元に残る現金はほぼゼロ、もしくは赤字に転じてしまいます。特に修繕費や税金は、予想外にかさむことがあり、これらの支出を考慮せずに物件を購入すると、大きな損失を抱えるリスクが高まります。

具体的な費用の例

  • 管理費:賃貸物件を維持管理するための費用です。これは月々の固定費として積み上がり、表面利回りには反映されません。特に、マンションの共用部分の管理費は避けられない出費です。
  • 修繕費:築年数が古くなると、物件の修繕にかかる費用が大幅に増加します。外壁の塗装や給排水管の交換、エレベーターの更新など、費用がかさむ修繕が発生することもあります。特に、大規模修繕は一度に数百万円の費用がかかることもあります。
  • 税金:固定資産税や都市計画税は毎年発生し、収益を圧迫します。また、物件の所得税も賃料収入に応じて増加するため、キャッシュフローに大きな影響を与えることがあります。

キャッシュフローを重視する理由

キャッシュフローとは、物件の運営にかかる全ての支出を差し引いた後、手元に残る現金のことです。つまり、家賃収入から上記のような費用を引いた後に残るお金が、実際の利益となります。このキャッシュフローがプラスでなければ、不動産投資は成功とは言えません。逆に、どれだけ利回りが高くても、キャッシュフローがマイナスであれば、長期的には赤字に転じてしまいます。

築古ワンルームマンションに潜むリスク

特にリスクが高いのは、築古のワンルームマンションです。これらの物件は比較的安価で、表面利回りも高いことが多いため、初心者投資家にとって魅力的に見えるかもしれません。しかし、低価格で購入できる反面、賃料も低いため、キャッシュフローが圧迫されやすいのです。

例えば、月額賃料が3.5万円の築古ワンルームマンションでエアコンが故障し、交換費用として7万円がかかるとします。この修繕費は、月額賃料の2ヶ月分に相当します。一方、月額賃料が7万円の物件であれば、同じ修繕費は1ヶ月分に相当します。つまり、低価格・低賃料の物件では、修繕費がキャッシュフローに与える影響が大きくなります。

修繕費によるキャッシュフローの圧迫

古い物件では、エアコンや給湯器の故障、排水口の詰まりなどが頻発します。これらは新築物件と同じような修繕費がかかるため、賃料が低い物件ほど修繕費が重くのしかかりやすいのです。不動産仲介業者はこのようなリスクを十分に説明しないことが多いため、購入者は事前にキャッシュフローのシミュレーションを行い、将来的な修繕費を考慮した上で投資判断をすることが重要です。

利回りに潜むその他のリスク

利回りだけを重視した投資には、他にも以下のリスクが存在します。

1. 空室リスク

表面利回りの計算には、物件が常に満室であることが前提として含まれています。しかし、現実には賃貸物件には必ず一定の空室リスクが伴います。特に、地方や需要の低いエリアにある物件では、入居者が見つからず、長期間空室になるリスクが高まります。空室が発生すると、家賃収入が途絶え、キャッシュフローは大幅に悪化します。仮に利回りが高くても、空室率が高ければ期待通りの収益を上げることはできません。

そもそも、利回りはリスクの裏返しでもあります。高利回りの物件は、客付けが難しいという側面を併せ持っています。

2. 賃料の下落リスク

賃料が将来的に下がるリスクも無視できません。エリアの需要が低下したり、近隣に新しい物件が多数建設された場合、競争が激化し、家賃を引き下げざるを得なくなることがあります。この賃料の下落もキャッシュフローを圧迫し、結果的に投資が失敗に終わることがあります。

このような事例は、郊外にある大学周辺で発生しています。学生の入居を見込んだオーナーが大学近隣に一等アパートを建設。しかし、数年後、大学が移転してしまい学生需要がなくなってしまった。大学以外にも賃貸需要があれば問題がないのですが、移転してしまう大学しか需要が無い場合、解決策がなくなります。

事例:青山学院大学厚木キャンパスの撤退。立命館大学びわこ草津キャンパスから一部学部の移転。北海道医療大学の当別町から北広島市への移転など。

3. ローン金利の上昇リスク

30年余りに渡った超低金利環境は、投資家にとって非常に有利でした。しかし、2024年以降、金利上昇の可能性が高くなってきました。変動金利のローンを利用している場合、金利が上昇すると毎月の返済額が増加し、キャッシュフローが悪化します。長期的に金利が上昇すれば、物件の収益性が低下し、最悪の場合、返済が滞るリスクも生じます。

ケーススタディ:表面利回りに惑わされる失敗例

ある投資家Aさんは、表面利回り12%と非常に高い物件を購入しました。物件は地方都市にあり、初期費用も抑えられ、短期間で回収できると見込んでいました。しかし、実際に購入して運用を始めると、予想外の事態が次々と発生しました。

まず、購入後すぐにエアコンが故障し、さらに給排水設備の老朽化による修繕が必要になりました。その結果、最初の1年で修繕費だけで50万円以上かかり、表面利回りの期待値は大幅に下回りました。さらに、物件のあるエリアの賃貸需要が減少し、入居者が見つからず空室期間が3ヶ月以上続きました。これにより、収益が途絶え、ローンの返済もままならない状態に陥ってしまいました。

最終的に、Aさんは物件を手放すことを決断しましたが、販売価格は購入時よりも低く、結果的に数百万円の損失を出すこととなりました。このケースは、表面利回りだけを見て投資判断を行った結果、キャッシュフローに大きな問題が生じた典型的な失敗例です。

キャッシュフロー重視の投資戦略

上記の事例からも分かるように、不動産投資において最も重要なのは、高い利回りではなく、安定したキャッシュフローを確保することです。その為には、購入する収益物件の立地条件は当然の事、必要以上に借り入れをしないことなど、あらゆるリスクを勘案した賃貸経営が求められます。