賃貸不動産経営の魅力の一つは、銀行ローンを活用することで少ない自己資金で大きな物件を購入できる点にあります。特にフルローン(全額融資)は、自己資金をほとんど使わずに投資を開始できるため、多くの投資家にとって魅力的です。銀行からフルローンの提案を受けることができるのは、信用力の高い限られた投資家ですので、提案自体が喜ばしいことのように思えるかもしれません。しかし、フルローンを利用するには、その背後に潜むリスクを十分に理解する必要があります。今回は、フルローンを利用する際のリスクや注意点について、具体的に解説します。
フルローンのリスクとは?
1. 月次収支の悪化リスク
フルローンを利用する場合、毎月の家賃収入からローン返済額を差し引いた残高が重要です。収益不動産を運営する際には、ローン返済だけでなく、賃貸管理会社への管理手数料や修繕費などの運営費用がかかります。例えば、区分マンションの場合、管理費や修繕積立金、一棟物件であれば共用部の光熱費や清掃費用が発生します。これらの費用を差し引いても黒字を確保できるかが重要なポイントです。
また、年次ベースでは固定資産税、都市計画税、さらには収益に対して所得税が課されるため、すべての諸費用を考慮しても、黒字で運営できることがフルローン利用の最低条件となります。月次収支が赤字に転じれば、毎月のローン返済が家賃収入で賄えず、自己資金を投入し続けなければならなくなります。
事例:フルローンを利用した失敗例
投資家Aさんは、自己資金を抑えてフルローンで物件を購入しました。最初の数ヶ月は家賃収入でローン返済ができていましたが、入居者が退去して空室が発生すると、家賃収入が途絶えました。そのため、毎月のローン返済を自己資金から補填しなければならなくなりました。すぐに次の入居者が決まればよかったのですが、残念ながら客付けには困難が伴いました。痛か月経過の後、自己資金が底をつき、物件を手放す羽目になりました。しかも、売り急いでいる為、Aさんが希望するよりはるかに安価な金額で売却せざるを得なくなりました。Aさんは、月次収支のシミュレーションが甘く、フルローンのリスクを軽視していたために大きな損失を出しました。
2. 金利上昇のリスク
現在の低金利環境は不動産投資にとって有利ですが、将来にわたって金利が低いままである保証はありません。2024年は、これまでの低金利時代が終焉した年です。今後は、金利上昇が見込まれます。変動金利型のローンを利用している場合、金利上昇が大きな負担になる可能性があります。金利がわずか1%上昇するだけでも、毎月の返済額が大幅に増加し、キャッシュフローが圧迫されます。
例えば、5,000万円の融資を受け、金利が1%上昇した場合、毎月の返済額は数万円単位で増加することが考えられます。金利上昇に対応できる余裕のあるキャッシュフローを事前に確保していないと、ローンの返済が滞るリスクが高まります。
事例:金利上昇で経営悪化したケース
投資家Bさんは、低金利時代に変動金利ローンで物件を購入しましたが、その後金利が急上昇し、毎月のローン返済額が増加しました。家賃収入からローンを返済していたBさんは、金利上昇によってキャッシュフローが圧迫され、追加の資金投入が必要となりました。最終的にBさんは物件を売却してローンを清算しましたが、物件価値も下がっていたため、残った負債が膨らむ結果となりました。
※一般的に、金利が上昇すると物件価格は下がります。これは、ローンを使用して購入する人が高金利を理由に、高額物件を避ける為です。
3. 長期的な返済期間中のリスク
フルローンに限らず、不動産投資のローンは長期間にわたるものが一般的です。例えば、ローンの返済期間が10年、20年、場合によっては30年以上に及ぶこともあります。この間に経済状況が大きく変わる可能性がありますし、予測できない天災や災害のリスクも考慮しなければなりません。
2024年の能登地方を例にとると、地震による被害が発生した半年後に洪水も発生し、物件が被災したケースも報告されています。このように、自然災害が立て続けに起こることもあり得ます。不動産が損壊しても、ローンの返済義務は消えず、収益を生まない物件に対して返済を続けなければならない状況に直面することがあります。
4. 自己資金が不足するリスク
フルローンを利用すると、自己資金をほとんど使わずに物件を購入できるため、一見安全に思えるかもしれません。しかし、突発的な修繕費用や空室リスクに対して、十分な自己資金がないと大きな負担となります。例えば、設備が故障したり、賃借人が退去して空室が発生した場合、自己資金でカバーできる準備がないと運営が不安定になります。
修繕費用や空室リスクに対応するためには、十分な自己資金を確保しておくことが重要です。特に、空室期間が長引いた場合、追加の資金が必要になることがありますが、フルローンを利用している場合、追加融資を受けるのは難しいケースが多く、キャッシュフローが悪化するリスクが高まります。
つまり、フルローンを使用すべき人は、ある程度の自己資金が手元にある人に限られる、という事です。
事例:修繕費で苦しんだケース
投資家Dさんは、フルローンで購入した物件の給排水設備が故障し、大規模な修繕が必要になりました。しかし、修繕費用を賄える程の自己資金はありませんでした。それ故、修繕費についても借り入れを行い一時的にしのぎました。しかし、ローン返済額が増加し、キャッシュフローが悪化しました。最終的には、赤字続きとなり経営が行き詰まることとなりました。
投資家が気をつけるべきポイント
フルローンを利用する場合、以下の点に注意することが重要です。
1. 金利上昇リスクを考慮する
フルローンを利用する場合、金利が上昇したときにキャッシュフローが圧迫されないかを十分に検討する必要があります。変動金利のローンを利用する際は、将来的な金利上昇を見込んだ返済計画を立てましょう。繰り上げ返済を行い、残債を減らすことは金利上昇リスクに対する有効な手段です。また、金利上昇リスクを負いたくない場合は、固定金利ローンを選択することも有効です。
2. 余裕を持った返済計画を立てる
ローン返済が家賃収入に過度に依存しないよう、余裕のある返済計画を立てましょう。一定期間、空室が発生しても黒字を維持できるよう、自己資金の余裕を確保することが大切です。
当然ですが、空室が発生したら、できるだけ早く客付けができるように賃貸管理会社と連携して行動することが肝要です。
3. 自己資金を確保する
突発的な修繕費や空室リスクに対応できるよう、ある程度の自己資金を残しておくことが重要です。フルローンで購入する場合でも、自己資金を温存して、予期せぬ出費に備えましょう。
金融機関は、高属性の人に対しては、できるだけ多額で長期間の融資を提案します。彼らのビジネスモデルは、資金を貸し付けることに対して発生する利息が収益なのですから、当然の行為です。金融機関からフルローンの提案の提案を受けたとしても驕ることなく冷静に対応しましょう。
4. 長期的なリスクを見据える
経済状況の変化や自然災害など、長期的なリスクに対しても備えることが必要です。ローン返済期間中に予期しないトラブルが発生しても対応できるよう、少なくとも火災保険・地震保険をかけ、想定されるリスクに備えましょう。
まとめ
フルローンは、少ない自己資金で大きな物件を購入できるため、投資家にとって魅力的な選択肢ですが、リスクを軽視してはいけません。月次収支の悪化、金利上昇、自然災害、自己資金不足といったさまざまなリスクに直面する可能性があるため、慎重な計画が必要です。
特に、将来的な金利上昇リスクや、長期にわたるローン返済中に発生する不測の事態に備えるためには、余裕を持った資金計画を立て、自己資金を確保しておくことが不可欠です。フルローンを利用する際は、短期的な利益だけでなく、長期的なリスク管理を徹底することが、成功する不動産投資の鍵となります。