相続税対策は信頼できる税理士や不動産業者と相談しながら時間をかけて準備することが重要!

相続

タワーマンションの節税効果の減少

従来、キャッシュを多く持つ富裕層にとっては、タワーマンションの上層階における実勢価格と評価額の大きな差を利用した相続税対策が、有効な租税回避策の一つとされていました。仮に、被相続人が実勢価格1億円のタワーマンションなどの居住用物件を所有し、かつそこに居住していた場合、居住用財産として3000万円の相続税の基礎控除を受けることができます。そのため、物件の評価額が基礎控除額以下であれば、相続税はゼロになります。

しかし、2024年(令和6年)1月1日以降に相続・贈与で取得するマンションに対しては、マンションの市場価格と相続税評価額の乖離率が1.67倍以上となる場合、相続税評価額が市場価格の60%になるように補正されることになりました。つまり、実勢価格に近づく形で評価額が修正されることになります。

ざっくりとしたイメージとして、実勢価格1億円の物件は、従来では評価額3000万円程度でした。しかし、今後は評価額が6000万円程度に引き上げられることになります。居住用財産の譲渡所得の特別控除を考慮しても、3000万円の資産があるとみなされ、相続税が発生します。もちろん、現金で持っているよりは有利ですが、従来のように完全に税金を回避することは難しくなります。

※実際の評価額の算定は、築年数、マンションの総階数、対象区分の所在階、敷地権持分などの事情を勘案するため、物件ごとに異なります。

タワーマンションの評価額改正について

2024年1月から施行されるタワーマンションをはじめとするマンション系の不動産に関する評価額のルール改正の原因となった裁判があります。

タワーマンション裁判とは?

タワーマンションを利用した相続税対策に対して、国税庁が「財産評価基本通達6項(総則6項)」を適用し、相続税の再評価を行った裁判です。この裁判により、タワーマンションを利用した節税の有効性が議論されるようになりました。

総則6項とは?

財産評価基本通達6項(総則6項)は、財産の評価方法が「著しく不適当」と判断される場合に、通常の評価方法ではなく、国税庁長官の指示に基づいて評価額が決定される規定です。この規定は、行き過ぎた相続税対策を抑制するために設けられていますが、その基準が曖昧であるため、恣意的に運用される危険性も指摘されています。そのため、総則6項は「伝家の宝刀」や「ウルトラC」とも呼ばれ、慎重に適用されるべきとされていました。

タワーマンション裁判の経緯

この裁判は以下の経緯で進行しました。

91歳のAさんが13億8700万円のマンションを購入(大部分は銀行からの借入金)。
相続人らが財産評価基本通達に基づき、評価額を約3億3000万円とし、相続税を0円で申告。
国税庁が、この評価額が低すぎると主張し、独自に不動産評価額を12億7300万円と算定、2億円超の追徴課税を請求。
Aさんの相続人らが追徴課税の取り消しを求めて提訴。
1審、2審ともに相続人らが敗訴。
2022年4月、最高裁が総則6項を適用し、国税庁の課税処分を適法と判断。Aさんの相続人らの敗訴が確定。

判決のポイント

裁判所は以下の点を問題視しました。

タワーマンションの購入により、相続税が0円になったこと。
相続税対策が主な目的であったこと。
銀行から多額の借入金をしてタワーマンションを購入し、相続税を0円にしたこと。
もしマンションを購入していなければ、相続税は約2億円発生していたとされ、節税によって約2億円の相続税が回避されたことが問題視されました。また、銀行からの借入時に「相続税対策として不動産を購入」と記載された稟議書が、相続税対策が目的であった証拠として取り上げられました。

この裁判を通じて、タワーマンションを利用した節税の有効性に対して新たな疑問が生じ、総則6項の適用が注目されることとなりました。

予想外の相続税発生のリスク

このような評価額の改正により、タワーマンションを購入することで相続税を回避できると考えていた人たちが、相続税を支払う必要に迫られることになります。相続税は、相続人に納税義務が発生します。もし相続人が納税用の現金を持っていない場合は、現金を調達する必要があります。具体的には、物件を担保に金融機関から借り入れをするか、物件そのものを売却して現金化しなければならなくなるのです。

さらに、相続税の納付期限は、相続開始を知った日から10か月以内と定められています。10か月はあっという間に過ぎてしまいますが、不動産の流動性は一般的に低く、投げ売りせざるを得ないケースも考えられます。

2025年問題と相続税の課題

この問題は、特に1940年代生まれの「団塊世代」と呼ばれる人々が多額の資産を持っていることが背景にあります。彼らの平均資産は2000万から4000万円程度とされており、今後80歳前後になる彼らが亡くなることで、多くの不動産資産が相続対象となります。これが、2025年問題と呼ばれる不動産業界の大きな課題となります。

タワーマンションを利用した相続税対策の将来

これまで、タワーマンションは相続税回避のために購入されてきましたが、評価額算定方法の改正により、そのメリットが減少しました。タワーマンションは、土地に対して多くの部屋があり、各部屋の土地持分が少ないため、自然と評価額が下がりやすいという特徴がありました。さらに、減価償却が取りやすく、駅前立地で値上がりも期待されることから富裕層に人気がありました。しかし、この改正により、節税の目的でタワーマンションを購入するメリットは減少しています。

相続税対策は事前の準備が必要

相続税対策は基本的に事前に行う必要があります。例えば、年間110万円の暦年贈与枠を利用した節税方法も、2023年までの制度では相続発生前3年の遡及で済んでいましたが、今後は相続発生前7年まで遡及して相続財産として課税対象とされます。つまり、事前に対策を講じなければ意味がありません。

相続税対策の方法は、制度改正によって今後も変わる可能性があります。信頼できる税理士や不動産業者と相談しながら、最新の情報に基づき、時間をかけて確実に準備することが重要です。