キャッシュフロー管理が成功の鍵:安定経営のための資金管理方法

賃貸経営の基礎

賃貸不動産経営において、物件の運営だけでなく、キャッシュフローの管理が非常に重要です。どれだけ収益が発生しても、キャッシュフローが悪化すれば経営は不安定になり、長期的な利益を確保することが困難になります。今回は、キャッシュフロー管理に焦点を当て、安定した賃貸経営を行うための資金管理のポイントを解説します。

※不動産投資におけるキャッシュフローとは、家賃収入からローンの返済や各種経費を差し引いた後、最終的に手元に残る現金のことです。言い換えると、月次や年次の現金収支を意味します。キャッシュフローは手元資金の額を計算する指標となり、不動産投資を安定的かつ継続的に行うために非常に重要です。

一般的には、手元に残る現金が多いほどキャッシュフローが良好であり、少ないほどキャッシュフローが悪い状態と表現されます。キャッシュフローが安定していれば、空室リスクや家賃滞納リスクが発生してもローンの返済に困ることなく、突発的な設備の故障にも対応できます。

売り物件情報(マイソク、各種売り物件情報サイト)に記載されている「利回り」はキャッシュフローとは異なります。どちらも重要な指標ですが、キャッシュフローはマイソクには記載されていないため、自分で計算する必要があります。


1. キャッシュフローを把握する:収入と支出のバランスを見極める

賃貸経営において、まず最も重要なのは毎月の収入と支出を正確に把握することです。家賃収入だけを見て経営が順調だと思い込むのは危険です。賃貸経営では、物件の購入価格やローンの返済額、管理費、修繕費、税金など定期的に発生する支出があります。これらのコストを差し引いた「実質的なキャッシュフロー」を確認することが必要です。

特に、ローンの返済額が大きい場合や修繕費が突発的に発生する場合には、家賃収入だけでは支出を賄えず、月次の収支がマイナスになるリスクがあります。これを防ぐためには、毎月のキャッシュフローを計算し、将来的な出費を見越した資金計画を立てることが重要です。

失敗事例:キャッシュフローを考慮しなかった結果

投資家Aさんは、都心部の新築ワンルームマンションを購入し、賃貸経営を始めました。新築で利回りが3%台と低く、またAさんは高属性だったため、銀行からフルローンの提案を受けました。結果として、月次のキャッシュフローは恒常的にマイナスでしたが、将来的に物件が自分のものになると信じ、この状況を許容していました。

しかし、ある日、入居者から転勤による退去通知が届きました。ワンルームマンションなので、賃借人が家族を残して契約を継続するわけではありません。この退去は7月、賃貸需要が低い閑散期に発生しました。新しい賃借人が入るのは10月となり、3か月間は空室が続きましたが、その間もローンの返済は継続して発生しました。Aさんは、今後の賃貸経営に不安を抱き、不動産業者に物件査定を依頼しましたが、どの業者も購入時より数百万円低い査定を提示してきました。この結果にAさんは大きく落ち込んでしまいました。


2. 突発的な修繕費や空室リスクに備える資金計画

賃貸不動産経営では、修繕費や空室リスクが避けられません。長期間にわたり物件を運営していると、給湯器やエアコンの故障、排水管の不具合などで大きな費用がかかることがあります。また、入居者の退去によって空室が発生し、家賃収入が一時的に途絶えることもあります。このようなリスクに備えるためには、余裕を持った資金計画を立て、突発的な支出に対応できる準備をしておくことが大切です。

たとえば、修繕費や空室対策として、毎月の収益から将来のリスクに備えた積立を行うことが望まれます。複数の物件で賃料が発生している場合はリスクが分散できますが、1戸しか運営していない場合は特に備えが必要です。賃料が1戸からしか得られない場合、その1戸で収益が上がらないと自己資金からの持ち出しが避けられません。

キャッシュリザーブを意識して資金を留保すると、さらに安心感が高まります。キャッシュリザーブとは、将来のリスクに備えてキャッシュフローの一部をあらかじめ確保しておくことを指します。区分マンションの管理組合での修繕積立金に相当するもので、この留保資金は突発的な事態に対応するための資金と認識することで、必要時に迷わず拠出できます。

事例:キャッシュリザーブを活用して経営を安定させた例

投資家Bさんは、複数の賃貸物件を所有しており、毎月の家賃収入の一部を修繕費用として積み立てていました。ある年、所有していたアパートの給湯設備が故障し、多額の修繕費が発生しましたが、キャッシュリザーブを用意していたため迅速に対応できました。これにより、入居者に不便をかけることなく問題を解決し、長期的な信頼関係を維持することができました。

このように、突発的な費用に備える資金計画を立てることで、賃貸経営の安定性が確保され、入居者にも安心して物件に住んでもらえる環境を提供できます。


3. ローン返済計画の見直し:金利変動リスクへの対応

ローンを利用して賃貸物件を購入している場合、金利変動による返済額の増加がキャッシュフローに大きな影響を与えることがあります。特に変動金利でローンを組んでいる場合、金利上昇によって毎月の返済額が予想以上に膨らむリスクがあるため、ローン返済計画の見直しや金利リスクへの対策が重要です。

2024年10月からは、各金融機関が短期プライムレートを見直し、+0.15%金利が上昇しました。短期プライムレートとは、金融機関が優良企業向けに適用する最優遇金利のことです。住宅ローンやアパートローンはこの金利を基準に設定されるため、結果的に適用金利も上昇します。

金利上昇により月次の返済額が増えると、これまでのキャッシュフローがギリギリの黒字だった場合、家賃収入だけではローン返済ができなくなる可能性があります。キャッシュフローが悪化すれば、経営に疑問を感じ、最終的には物件を手放さざるを得なくなるかもしれません。

そのため、金利変動リスクに備えるには、繰り上げ返済で残債を減らす、固定金利への切り替えを金融機関に打診する、または他行への借り換えを検討することが効果的です。さらに、長期ローンを選択することで毎月の返済額を抑え、柔軟な返済計画を立てることも有効です。ただし、固定金利は変動金利より高めに設定されていることが多く、切り替えのタイミングや手数料も事前に確認する必要があります。

事例:金利上昇リスクに対応して成功した例

投資家Cさんは、変動金利でローンを組んで都心部の賃貸物件を購入しましたが、コツコツと繰り上げ返済を続けていました。数年後、金利が上昇し、月次返済額が増加する旨の通知を金融機関から受けましたが、繰り上げ返済のおかげで、増額後も当初の返済額より少ない返済額を維持することができました。先を見据えた経営判断が、外部環境の変化に対処する力を養いました。


このように、キャッシュフロー管理をしっかりと行い、資金計画を適切に立てることが賃貸不動産経営の安定を支えます。