都心部の物件が必ずしも安全な投資先ではない理由

賃貸経営の基礎

不動産投資において、都心部の物件はしばしば「安全でリスクが少ない」と考えられています。特に、賃貸需要が高く、資産価値が安定しているという点が強調されることが多いです。しかし、現実には都心部の物件が必ずしも投資家にとって理想的な選択肢とは限りません。都心部の物件は高額である上、競争が激化しており、空室リスクが存在します。特に、高級賃貸物件やタワーマンションにおいては、思わぬ問題が生じることが少なくありません。


都心部物件の競争と空室リスク

都心部は確かに高い需要が見込まれますが、その分新しいタワーマンションや高級賃貸物件が次々と建設され、賃貸市場での競争が激化しています。例えば、あなたの周囲でも新築物件が建設中だったり、新たに供給された物件が増えているのを見かけたことがあるかもしれません。

新築物件の増加は、賃貸市場における競争の激化を意味します。特に高価格帯の物件では、入居者が家賃に見合った設備や利便性を強く求めるため、他の物件と差別化を図るために追加のコストが必要になることがあります。また、家賃を大幅に下げて競争に打ち勝つことが難しく、結果として空室が長引くというジレンマに陥るケースも珍しくありません。


事例:晴海フラッグと投資物件のリスク

最近の事例として、東京都中央区の「晴海フラッグ」が挙げられます。この物件は、東京オリンピック・パラリンピックの選手村跡地を再開発したもので、高額な投資目的の購入が相次いでいます。しかし、NHKの報道によれば、物件の3割以上が入居実態のない区分所有となっています。これは、値上がりを狙った転売益目的の投資家が購入しているケースが多く、実際に賃貸運用されていない物件が多いことを示しています。

参考:NHK

一方で、ローンを組んでこのような高額物件を購入した場合、賃貸付けがうまくいかないリスクがあります。特に、タワーマンションや高級賃貸物件は富裕層向けであり、賃貸需要が限られているため、空室リスクが高いのです。物件を空室にしておけば転売益を狙えるかもしれませんが、その間もローンの返済、管理費、修繕積立金、固定資産税などのコストがかかります。もし賃貸が成り立たなければ、投資家は地獄を見ることになるでしょう。


供給過多と競争の問題

新築物件が次々と供給されることにより、特にタワーマンションや高級賃貸物件では空室リスクが無視できなくなっています。新築物件の魅力は、最新の設備やデザインにあります。これにより、築年数が経過した物件は、入居者にとって選択肢として魅力を失いがちです。その結果、築年数が古い物件は空室に苦しむケースが増え、競争力を失う可能性が高まります。

さらに、新築物件の入居者は新しい環境や快適な生活を求めて引っ越す傾向が強くなるため、古い物件は家賃を下げざるを得ない状況に陥ります。しかし、高価格帯の物件では、家賃を大幅に下げることが難しいため、空室期間が長引くリスクが高まります。このような空室リスクは、都心部の物件であっても例外ではありません。


高価格帯物件の空室リスクと景気の影響

高級物件やタワーマンションのような高価格帯の賃貸物件は、空室リスクが特に高いです。これは、賃貸需要が一部の富裕層に限定されているためであり、景気の変動に大きく左右されやすいことが原因です。経済が好調なときは富裕層の賃貸需要が高まりますが、景気が悪化すると富裕層の消費活動が抑制され、高級賃貸物件への需要が急激に落ち込む可能性があります。

例えば、リーマンショック後の不況時には、多くの高級物件で空室が長引きました。また、COVID-19のパンデミックによっても、多くの富裕層が都心部から地方へと移住する傾向が強まり、都市部の高級物件で空室が増加する現象が見られました。このような景気の変動に左右される不動産は、安定したキャッシュフローを期待する投資家にとってはリスクが大きいと言えるでしょう。


利回りの低さと収益性の問題

都心部での不動産購入には、利回りが低いという課題もあります。物件価格が高いため、賃料収入に対する利回りは他の地域に比べて低くなることが一般的です。そのため、短期的な収益性を期待して都心部の物件に投資することは、必ずしも賢明な選択とは言えません。利回りが低いため、物件の維持管理や設備更新、入居者募集のコストを賄うためには、余計な経費がかかることが少なくありません。

例えば、築10年以上のマンションでは、外壁の修繕や共用部分のメンテナンスが定期的に必要となり、その費用は、管理組合を経由してオーナーに請求されます。また、築年数が古くなるほど、設備の老朽化やリフォームが必要となり、物件を魅力的に維持するためのコストがかさむことが多くなります。これらの経費は、利回りが低い物件では特に厳しく、長期的な収益性に大きな影響を与えます。


転売益を狙う際の課税リスク

都心部の物件を転売目的で購入する投資家も少なくありませんが、この場合もリスクがあります。まず、物件を購入後、長期譲渡課税の適用を受けるためには、最短でも5年間※保有する必要があります。5年間は売却できないため、その間の賃貸収入がなければ、固定資産税、都市計画税、管理費、修繕積立金といった維持費用を払い続けなければなりません。
※所有後、1月1日を6回超えると長期譲渡課税対象となると理解すると覚えやすい。

また、5年間という長い保有期間の間に、景気や不動産市場の動向が変わる可能性もあり、転売益が思ったほど得られないリスクもあります。例えば、供給過多の状況や新規開発プロジェクトが進行しているエリアでは、物件の価格が下がる可能性があり、転売による利益を見込んでいた投資家が損失を出すこともあります。金銭的に余裕がない場合、このような状況は非常に厳しいものになるでしょう。


都心部物件が適している投資家とは?

都心部の物件は資産価値の保全が見込める一方で、利回りが低く、短期的なキャッシュフローを期待する投資には不向きです。そのため、都心部の物件は収益目的というより、長期的な資産保有や相続対策を目的とした投資家に向いていることが多いです。

例えば、ある投資家は都心部の物件を相続税対策として購入し、長期的に保有することで資産を守ることに成功しました。このような長期保有を前提とする投資は、価格の安定が見込まれる都心部では有効な手段ですが、短期的な利益を期待する投資家にとっては、あまり魅力的ではないかもしれません。


マインドセット

もし都心部の物件を検討しているなら、物件の供給状況や家賃の動向を再確認し、本当に安定した収益が得られるかを慎重に評価する必要があります。高価格帯の物件は空室リスクが高く、投資におけるリスク管理が非常に重要です。また、あなたの投資戦略に合った物件選びができているか、もう一度見直してみましょう。短期的なキャッシュフローを重視するのであれば、他のエリアや別のタイプの物件を検討することも一つの選択肢です。


以上のように、都心部の物件には多くの魅力がある一方で、投資リスクも無視できないという現実があります。リスクを十分に理解し、自身の事業スタイルに合った物件選びを行うことが、成功する不動産賃貸業への第一歩です。

 

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