国内で不動産投資を行っている皆さまの中には、少子高齢化が進む日本だけで不動産投資をすることに対するリスク分散の意味で、「いつかは海外にも進出してみたい」と思っている方がいらっしゃるかと思います。しかし、不動産は高額です。何千万もする物件を現金買いすることのできる人は、多くはありません。そこで、融資が受けられないか?と思案することは、当然です。当記事では、海外不動産購入に際して、日本政策金融公庫からの融資について付けをする方法についてまとめていきます。
海外不動産は、基本的には全額現金払いの世界と言われますが・・・・
国内不動産であれば、様々な金融機関が融資してくれます。しかし、海外不動産については、一気にハードルが高くなります。ハードルの高さは、融資の難しさだけではありません。何もかもが、日本国内の常識とは全く異なると言っても過言ではありません。適用法令、使用通貨、税制、現地の管理体制・・・・挙げたらきりがありません。
金融機関としては、確実に融資資金が回収ができることと、万一、資金回収ができなくなったときに差し押さえることのできる担保を確保することの2点を基に、融資実行します。融資対象が海外不動産の場合、購入する物件の評価能力がない事と、万一の時の差し押さえが難航することから、融資が付きづらいのは想像に難くありません。それ故、海外不動産購入のために融資してくれる金融機関は、日本政策金融公庫以外にもありますが僅少です。
海外不動産購入に日本政策金融公庫は融資してくれる?
海外不動産購入目的で融資してくれる金融機関の一つとして、日本政策金融公庫が挙げられます。そして、物件の購入目的は「投資」ではなく、「不動産賃貸業」という事業の海外展開という位置づけとなります。したがって、公庫に対しての説明は、一貫して、海外不動産投資ではなく、海外での不動産賃貸業という視点から事業展開の説明を行うことが必須です。融資面談では、くれぐれも「投資」という言葉を発しないようにお気を付けください。
また、国内で全く不動産賃貸業の実績がない人には、融資してくれません。ただでさえ難易度が高い海外不動産事業です。国内で不動産賃貸業の実績が無い方は、まずは国内でしっかり実績を作ってください。
今後の融資申込の足かせになる却下履歴・融資獲得失敗は絶対に避けたい
万一、融資獲得に失敗すると、「融資申込を却下した」、という負の履歴が政策金融公庫に残ります。この履歴は、政策金融公庫内に数年残ります。公庫内で情報共有される為、同じ案件に対して他の店舗で融資申込をしても無駄です。また、海外不動産に対する審査能力は、残念ながら支店や担当者によって異なります。これまで海外不動産に対して融資実績を持っている支店・担当者に融資申込をすることが鉄則です。支店や担当者によっては海外不動産購入に対して融資をしたことが無いかもしれません。海外不動産に対する審査能力のない担当者に、融資を申し込むのは命取りとなりかねません。
ところで、海外不動産に対する融資実績をもつ支店・担当者情報は一般には知られていません。また、融資申込をする相談窓口は、皆さまのお住まいの市区町村を担当する支店が割り当てられています。それ故、仮に、○○支店で海外不動産への融資実績がある、という情報を入手しても、当該支店があなたのお住まいの市区町村を担当していない場合、残念ながら申し込みができないのです。
政策金融公庫の融資申込は融資を引き出した経験のある税理士に依頼するのがいいと聞くが何故?
政策金融公庫で海外不動産購入を目的とした融資を獲得した人の多くが、融資を引き出した経験のある税理士経由で融資申込を行っています。これには、理由があります。メリットとデメリットを確認しましょう。
メリット1:融資申込先・担当者を把握している
最大のメリットともいえる点ですが、融資を引き出した経験のある税理士は、どの支店のどの担当者に融資申込をするのが有利なのかを知っています。また、税理士が融資を申し込む場合、居住地担当制の制約は外れます。ですから、税理士が、既に実績のある支店・担当者に打診することができるのです。
メリット2:融資申込に必要な書面を作成してくれる
日本政策金融公庫の融資に際して提出する書類は、多種にわたります。政策金融公庫が納得できる事業計画書を準備し、提出する必要があります。融資申込に必要な借入申込書や事業計画書は、審査結果に直結する最重要書面です。融資後の資金繰りシミュレーションを提示し、事業として成り立つ見込みが立ち、且つ、返済にも全く問題が生じない、ということを納得してもらう必要があります。このシミュレーションの信頼性は、素性の知らない融資申込者本人が書くのと、経理・財務のプロフェッショナルである税理士が書くのでは、大きく異なります。当然ですが、税理士が書いた書面の方が、信頼性が高くなります。
審査に影響する重要な書類です。会社概要や開業への思いは事業者自身が整理をしてまとめることができますが、数字などの具体的な中身は、説得力のある数字でまとめる必要があります。その点、融資の経験がある税理士は、審査が通りやすくなるように書き方のポイントを抑えながら作成をしてくれます。その分事業者は、事業に専念することが出来るため、メリットとなります。
メリット2:融資準備段階で不明点を解決できる
融資申込に際しては、提出書面の準備の他、公庫の担当者との面談が必要となります。書面に書くべきこと/書くべきでない事、面談で話していいこと/いけない事を把握しておく必要があります。余計なことを書面にしたばかりに、あるいは、余計なことを口にしてしまったばかりに融資が拒絶された、ということ防ぐ効果が期待できます。
メリット3:融資面談に同席してもらえる
融資面談に一人で臨んだ場合、万一、回答に窮するような状況に陥ったとしても、誰も助けてくれません。しかし、税理士が同席してくれていれば、回答補足をしてくれます。回答に窮するような場面が生じなかったとしても、頼りになる人が隣に座っているというだけで安心感が得られますよね。安心感を持てるからこそ、自信をもって担当者への回答ができる、とも言えます。
デメリット1:税理士に支払う費用が発生する
税理士経由で日本政策金融公庫に融資申込をすると、当然ですが、税理士に対する費用が発生します。費用は、税理士によって異なりますが、概ね融資実行金額の数%と言われています。ご自身で融資を引いてくることができるのであれば、無駄な出費となりますが、融資を有利な条件で受けられる可能性・確実性を高める費用と考えたら、納得できるのではないでしょうか?
デメリット2:融資を引き出した経験のある税理士って誰だか分からない
一般的な創業融資とは異なる側面を持っている為、海外不動産購入目的で日本政策金融公庫から融資を引いてきた実績のある税理士はなかなか少ないと思います。まずは、周りの人やネット検索して情報収集してみましょう。複数の人に聞いて、信頼できる税理士を見つけてくださいね。
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日本政策金融公庫を使うメリット・デメリットは?
政策金融公庫を使う、メリット・デメリットを見てみましょう。デメリットを正しく踏まえていないと、毎月のやりくりがきつくなるなど後悔することになりかねません。
日本政策金融公庫を使うメリット
低金利
日本政策金融公庫は「固定金利」のみとなっています。購入する物件や、申し込む人の属性、余裕する金融資産などの諸条件で異なりますが、金利は2%以下と言われています。他の金融機関にくらべて低金利と言えますね。融資銀額は、1,000万円~1億円です。
登録免許税免除
抵当権設定には、通常であれば登録免許税が掛かりますが、政策金融公庫利用時には登録免許税が免除されます。抵当権設定登記の場合、 登録免許税は、借入額(債権額)×0.4%となります。
※司法書士に支払う費用は、当然ですが、免除されません。
融資期間や金利の優遇
- 女性
- 29歳までの若者(男性)
- 55歳以上の高齢者(男性)
に対して、融資期間や金利の優遇される場合があります。
日本政策金融公庫を使うデメリット
融資期間が短い傾向
事前にシミュレーションをしておかないと、月々の返済額が意外と負担に感じる可能性があります。利回りの小さい投資である場合、毎月の賃料収入だけでは借入金返済ができない可能性があります。
事例研究:2500万円の物件を自己資金500万円、融資2000万円、表面利回り6%で購入するしましょう。月々賃料¥125,000が想定されます。一方の返済額は、概算で
期間15年: ¥120,000 /月
期間20年: ¥92,000/月
期間25年: ¥75,000/月
となります。融資期間15年で設定された場合、意外に負担が大きい気がしませんか?ここから、月々の賃料から、各種諸経費を差し引いた場合、毎月、持ち出しが発生します。このような事態を避けるためには、自己資金額を増やす、利回りの高い物件を探す等の対策が必要になります。毎月、持ち出しが発生する事態は、筆者はお勧めしません。
尤も、このスキームは、国内でも賃料収入があることが前提となるので、海外で得た外貨建ての賃料収入を、直接、借入金の返済に充てることはないと思います。しかし、基本的な事を正しく理解いただく必要があるので、この項目を書いています。
担保物件が必要
日本政策金融公庫の融資申込に際して国内で不動産賃貸事業の経験が無いとダメな理由の一つは、冒頭にご説明した通り、経験そのものが要求事項の一つだからです。もう一つは、担保物件が必要な点です。日本政策金融公庫は、無担保融資は行っていません。それ故、公庫への申し込みに際しては、抵当権設定可能な価値のある物件が必要となります。