2021年2月18日(木曜日)未明、NHKのETV特集、『夫婦別姓 “結婚”できないふたりの取材日記』が放送されました。番組の内容は、事実婚の夫婦が別姓を選択した背景、夫婦同氏が法制化された背景、夫の両親との考え方の違いから生じる葛藤などが取り上げられています。番組中の後半で、元衆議院議員の亀井静香氏が登場し、発言しています。この発言内容が、Twitter上で炎上しています。何が起こっているのでしょうか?
再放送確定
視聴者からの要望により、再放送されることが決まりました。次回の放送は、6月10日(木)午前0:00から60分です。深夜です。お間違えないようご注意ください。この時間、就寝されている方も多いかと思います。また、この時間に視聴ができる方であっても、繰り返し見る価値があります。是非、皆さま、録画してご覧ください。NHKプラス、及び、NHKオンデマンドでもご覧いただけます。
『夫婦別姓 結婚できないふたりの取材日記』での亀井静香氏の発言内容 「天皇の子」?
まずは、『夫婦別姓 “結婚”できないふたりの取材日記とは、どのような内容だったのかを確認しましょう。NHKの番組見出しによれば、
「結婚してもあなたの名字にはなりたくない!」始まりは彼女のそのひと言だった。彼女には、私の姓になりたくないある事情があったのだ。やむなく私が彼女の姓に変えて結婚しようとしたら「勝手に名字を変えたら親子の縁を切る」と今度は両親が激怒。夫婦別姓で結婚しようにも、日本の法律ではそれもできない。立ちはだかる両親と法律の壁。名字とは?家族とは?結婚できないふたりが向き合った2年半のセルフ・ドキュメンタリー。
となっています。それ故、この見出しを見るだけでは、亀井氏が登場することは分かりません。では、亀井氏はどのような発言をしたのでしょうか?番組では、衆議院議員時代に、選択的夫婦別姓に反対していた亀井静香氏に、事実婚の二人は取材に出向きます。亀井氏への取材は番組のうち5分程度です。文字起こしに際し、若干聞き取れない箇所がありましたが、概ね以下のようなやり取りが為されています。
【亀井】「事実婚夫婦。ややこしいんだね。あんたたちは、そんなややこしいことして生きていかなきゃならんの?」
【妻】「お互い、自分の苗字で生きていきたい、という想いで事実婚を選んでいます」
【亀井】「愛し合ってるならね姓が一緒でないと、困るんじゃないの」
【妻】「何に困りますか?」
【亀井】「やっぱりさ、ひとつになった方がいいんだよ。あんたたち体も一緒になるんだろ?だから心も一緒になったら、全部一緒になったらいいんだ」
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【妻】「そもそも、何故、日本では夫婦同姓でないと結婚が認められないの?」
【亀井】「簡単に言うとね、国家の都合だよ。勝手なことをやっている人に、国家が全部合わせたら、どうするんだよ。一人のわがままに合わせていたらさ、国家というのは困っちゃうんじゃないかなぁ」
【妻】「少数派のわがままには付き合っていられないよ、ということですか?」
【亀井】「そりゃ付き合っていられないよ。だって一億人以上いるわけだから」
【夫】「妻の苗字も妻の苗字、夫の苗字も夫の苗字として、二つの苗字を尊重していく家族…」
【亀井】「そこまで嫌なら結婚しなければいいじゃないか」
【夫】「法律婚ができないことで、子どもの共同親権が持てない不利益がある…」
【亀井】「メリットを受けたいならば、多数派のルールに従うべきだ」
【亀井】「国家からの恩恵を受けたいと思うのであれば、国家のルールに対してある程度妥協せんと生きていけねえだろって俺は言ってるんだよ。常識的なことを言ってるんだよ。国家の保護を求めながらね、いっさいね、国家の行為に対して協力をしないというのは得手勝手って言うんだよ!よく考えてみなさいよ。あなた方のためにね、他の国民がおるわけじゃないんだよ」
【夫】「個人個人の思いを尊重できる日本になれるのか、ひとつの家族の形しか認めない社会になるのか。どちらが理想だと思いますか」
【亀井】「日本はな、天皇の国だよ。簡単に言うと。まあだからね、民がさ、夫婦が姓が一緒だ別だなんて言うこともないんだよ。みんな天皇の子だから。一緒なんだよ。おれなんか古い人間かもしれんけど。 身も心もあなたにあげるわ、でないといけない。」
【亀井】「あなた(=夫)は本当はな、いいか、心から愛されてないんだよ、間違いない」
【夫】「それはないと思います」
【亀井】「ないってそれは自分で勘違いしてる」
【妻】「それは無いと思います」
亀井静香氏の発言内容に対するネット上の反応は?
深夜放送の番組であるにも関わらず、このような発言に対して放送直後から、twitterが炎上しました。代表的なコメントとして、別姓訴訟の原告でもあるサイボウズ株式会社の青野氏のコメントを挙げます。
あなたのわがままに付き合わされて、多くの日本国民が困っているのだが。
「ひとりのわがままに合わせていてたらさ、国家というのは困っちゃうんじゃないかなあ」
別姓願う夫婦に「付き合ってられない」 亀井静香氏:朝日新聞デジタル https://t.co/YeEvs6Ysin
— 青野慶久/aono@cybozu (@aono) February 18, 2021
続き)「わがまま」にもいろいろある。例えば、「ラーメンを食べたい」というわがままと「お前もラーメンを食べろ」というわがまま。どう考えても後者の方が厄介。つまり「結婚しても改姓したくない」ではなく、「すべての夫婦に同姓を強制したい」という亀井静香氏のワガママが問題なのだ。
— 青野慶久/aono@cybozu (@aono) February 18, 2021
更に、正しい歴史認識に基づく投稿もありました。
亀井静香さんの言葉はとても残念でした。鎌倉幕府を開いた源頼朝の妻、北条政子。室町幕府8代将軍・足利義政の妻、日野富子。日本はもともと夫婦別姓の国です。夫婦同姓の歴史は浅く、明治時代に国民の生活実態と合わないからという理由で変わっただけです。https://t.co/iKvvKxShc1
— 中村哲治 (@NakamuraTetsuji) February 18, 2021
世論は選択的夫婦別姓への理解が進んでいます
世論は選択的夫婦別姓への理解が、年々、確実に増えています。最新の調査結果として、2020年11月に早稲田大学法学学術院教授で弁護士の棚村政行氏、および、市民団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」が行った合同結果によれば、選択的夫婦別姓に賛成したのは約7割に上りました。一方で、「自分は夫婦同姓がよい。他の夫婦も同姓であるべきだ」と回答したのは14%となっています。着目すべき点は、「ほかの夫婦も同姓であるべき」と考えている人の方が、圧倒的に少数派ということです。選択的夫婦別姓なので、自身が同姓を選ぶのか、別姓を選ぶのかは、自分自身で選択すればよい話です。他の夫婦の姓について、強制する方がおかしいのです。先に取り上げた、青野氏の言葉を借りれば、「お前もラーメンを食べろ」と言われて、嫌な思いをするのと同じではないでしょうか?ラーメンを食べたい人だけがラーメンを食べたらよいのです。
もし、本当に、男女で平等であれば、夫の姓・妻の姓の選択割合がほぼ半数ずつになるはずです。しかし、現在、婚姻によって96%の夫婦が夫の姓を選択しています。実質的に、女性が自分の意思に関わらず自分自身の姓を放棄しているのが現状です。なぜ、女性ばかりが望まない改姓が強いられるのでしょうか?家父長制の意識の残存や、男性による女性の支配欲が、この制度の根本にありそうです。
同じ姓であれば家族の一体感が高まる、というのであれば、何故、離婚が発生するのでしょうか。姓を同一にすることでは、残念ながら一体感や絆といった精神的な結びつきは醸成できません。家族観の愛情によってのみ醸成されるものです。どれだけ形式的にしばりつけても、夫婦の愛情を強める効果はありません。
同居する家族が姓を異にすることは珍しくありません。代表的な例は、漫画「サザエさん」です。サザエさんの家庭は、不仲な家庭でしょうか。タラちゃんは、サザエの息子なので、カツオやワカメは兄弟ではありません。しかし、カツオやワカメを兄、姉のように慕っています。そして、カツオ・ワカメも姓が異なる甥(タラ)を弟のようにかわいがっています。つまり姓の異なる叔父・叔母と甥の関係であっても、仲良い兄弟のようになるのです。兄弟で姓が異なることで家庭の絆が弱まる、という論調も的を射ていないことが分かります。
注:サザエさんの家庭は、磯野とフグ田の2つの姓からなる家族です。
磯野:波平、フネ、カツオ、ワカメ
フグ田:マスオ、サザエ、タラオ
選択的夫婦別姓は、選択肢を増やすにすぎません。夫婦は同一姓が望ましいと考えている夫婦は今まで通り同じ姓を選択できます。森喜朗氏の女性蔑視発言からクローズアップされたジェンダーギャップの要因ともなる夫婦同氏の強制。誰もが自身の望む姓を選択して婚姻できる制度に改めていく必要がありますね。
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